C・Gさん/スカッシュ選手
「『すべてのスポーツは心理戦』。そう断言できるくらい、試合中に自分の心をどれだけコントロールできるかはきわめて重要です。
そうした意味で私はこれまで、心を引き算する瞑想にたくさん助けられてきましたね。
この瞑想のおかげで全国レベルの選抜メンバーにも選ばれ、4年連続で全国大会にも出場できましたから」と語るC・Gさん。
スポーツと心の関係についての興味深い体験談です。
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興味本位で始めたスカッシュ。「もっと上手くなりたい」という思いが募って…。
スカッシュとの出会いは大学1年の時でした。知り合いのコーチから勧められて始めたんです。実際にやってみるとこれが面白くて、夏休みを利用してインストラクターの資格を取るほど夢中になりました。
そうして大学生活もスポーツセンターでスカッシュの講師をしながら送りました。
スカッシュとは、“ボールを四方の壁に叩き込む”という意味の言葉で、イギリスの囚人たちが刑務所でしていた、壁にボールをぶつけるゲームに由来します。
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前方の壁だけでなく左右、後方の壁も利用しながら目まぐるしくボールを打ち合うスカッシュでは、一瞬一瞬の判断力と瞬発力、常に動き続ける体力が重要です。
ですからエネルギーの消耗量は半端じゃないですね。一般の人がスカッシュを5分~10分もすれば大半がヘトヘトになっていまいますよ。
それほどハードなスカッシュですが、ボールを全力で叩くと固い心に風穴があいて、たまったストレスが一気にほどけていくような気分になれるんですね。そんな所に魅力を感じて私はスカッシュにのめりこみました。ボールを思うがままにコントロールして相手に打ち勝った時の気分は最高です。
そうして私は大会にも出場するようになったのですが、ある時から敗けることを極端に嫌うようになりました。敗けるたびにプライドが傷つき、勝ちたいという強い気持ちが生まれるようになりました。
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過去の失敗から自由になりたくて始めた瞑想
私はもともとスカッシュに興味があったわけですが、始めた当時はスカッシュの知名度は今よりもっと低かったんですね。国からの補助金もほとんど得られないような状態でしたから選手たちは会社に勤めたり別の仕事をしながら試合に出場するケースが大半でした。
ですからスカッシュの選手として生きていくことを決めたときは周囲からだいぶ心配されました。幸いにしてその頃、国家代表選手と合同で9ヶ月間のトレーニングをする機会に恵まれ、おかげで志を同じくする人々と一緒にトレーニングできたことは大きな励みになりました。
そうしてトレーニングを積み重ねる過程で幸運にもスカッシュの認知度は上昇し、私も自分の実力を多くの人に認めてもらおうと努力を続けました。
ところが、思ったよりも成績は振るいませんでした。
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当時の私には試合中に出る悪いクセがあったんです。ミスをしたり自分のプレーが思うようにいかなかったりすると試合中ずっとそのことを考えてしまうんです。そのプレーはすでに終わったことなのにもかかわらず、です。
この問題をどうすれば解決できるのか悩んでいた時、恋人の紹介で心を引き算する瞑想と出会いました。
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ミスを繰り返す原因を見つけてとにかく引き算
一番最初にセンターのガイドの方からこんな説明を受けました。
「私たちは今まで人生で足し算ばかりしてきましたよね。でもこの瞑想は心を引き算するものなんです。引き算すればすべては無いものなんですよ」と。
この言葉は私にとって希望のメッセージのように聞こえました。
その競技で生計を立てようとするアスリートにとって、試合に勝たなければならないというプレッシャーの大きさは、経験した人でなければわからないと思います。本当に大変な重圧です。特に大きな試合を前にするとありとあらゆるネガティブな考えが出てきてしまうものなんです。
「試合に敗けたらどうしよう」
「ケガをしたらどうしよう」
「今後の収入はどうなるだろうか」
「敗けたら周りから何て言われるだろう…」
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ボールをコントロールする立場なのに、ボールに囚われ支配されてしまうんです。
そのため、普段は高い実力を持っている選手でも実際の試合になると十分な実力を発揮できないケースは少なくありません。
瞑想を始めて何日か経つと、人生の様々な記憶が一気に押し寄せてきました。小さい頃のつらかった思い出から試合で敗けた時の記憶まで…。
驚いたのはそうした記憶が心の中だけでなく、体の細胞一つ一つにまで染み込んでいるということでした。おかげで同じ失敗をなぜ繰り返してしまうのかがよくわかりました。
スポーツ選手ならみな知っていると思います。
以前に犯したミスを試合中の決定的な瞬間に自分が繰り返してしまっているということを。
本当に知らないうちにやってしまうんです。練習を懸命に繰り返して弱点を克服したと思っても、一瞬の判断でなされる実戦では元の木阿弥になってしまったり…。
無意識的な行動の数々は体の記憶によることを悟った時、あたかも永遠に解けない謎を解き明かしたような気分でした。それ以降はとにかく引き算の瞑想に没頭しました。
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努力した分だけ理想のプレーを実現できる幸せ
この瞑想と出会ってから私自身が一番変わった点は、ひたすら競技だけに集中するようになったことですね。
ただスカッシュが楽しくて夢中になっていた頃の気持ちを取り戻したとでもいうか…。ある時、気がつくと私は笑顔で試合を楽しんでいたんです。
心に余裕が生まれると視野も広くなり、自分や対戦相手がどのようなプレーをするのかも冷静に見えるようになりました。体と心に染み込んだ記憶に縛られることが無くなると、自分の望んだプレーを実現できるようになったんです。
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複数の選手とチームを組んで試合をする時にはチームワークが何より重要になりますが、2ヶ月もの間、合宿形式で合同練習をした際はみなが互いのプレーを生かす動きができました。私が全力で叩き込んだボールをどのチームメイトも見事に打ち返してきて、スキを見せるヒマも無かったほどです(苦笑)。
合宿ではお互いのプレーを通して自分に足りていない部分を補強することができてチームメイトたちには感謝でいっぱいでしたね。
以前はミスをしたことで自分を責めたりしたんですが、今はミスも教訓としてとらえられるようになり、弱点を事前に把握した上で試合に臨めるようになったため、実績も次々に残せるようになりました。
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スポーツ選手としては日頃の努力の成果を試合で発揮できた時ほど幸福な瞬間はありません。
他の選手にも心の引き算を通して最高のパフォーマンスを発揮してもらえたらと思います。